中学で学習する物理範囲のうち、エネルギーにまつわる分野はおおまかに、「仕事・仕事率」に関する分野と、「力学的エネルギー」に関する分野の二つに分類することができます。
今回は後者の力学的エネルギーについて、より具体的に言うならば、位置エネルギーと運動エネルギ―について説明していきます。
エネルギーの分野を苦手としないために
物理的範囲に関しては、どうしても数学を彷彿とさせることから苦手意識をもってしまう生徒が多いようにも思います。
しかし、こと力学的エネルギーに関して言えば、具体的な計算問題が出題されることは少なく、原理をしっかり理解していれば解答することができるような問題が出題される方がむしろ多いと言えるでしょう。
したがって、どのような原理が働いているのか、そして、その原理が具体的なケースでどのように作用しているのか、ということを深く理解するようにつとめることが肝心です。
また、高校から「物理」が独立した科目として扱われることになりますが、その一番初めの部分で学習するのがこの範囲で、さらに複雑な数式とともに扱われることになります。
せっかく学習するのですから、曖昧な部分を作らないようにしておきましょう。
エネルギーとは
他の物体に対して仕事をすることができる状態にある物体は「エネルギーをもっている」といいます。
仕事の単位と同じく、J(ジュール)を使うことになります。仕事について理解が曖昧な方は、仕事・仕事率についての復習を丁寧にしてから以後の説明に進んで下さい。
位置エネルギーとは
物体が「エネルギーをもっている」という状態をもう少し具体的に考えてみたとき、例えば、ある物体が「高いところにある」という状態に対してエネルギーを読み込む場合のことを、位置エネルギーと言います。
簡単なイメージとしては、高いところにある物体は、それを落としたときに、地面に衝突することができます。地面に衝突したとき、おそらく高さに応じた衝撃を観念することができるでしょう。
また、物体が重ければ重いほど、地面に衝突したときの衝撃も大きいということは分かりやすいでしょう。
このように、この高さから落とすと衝撃を生みだすことができるだろう、という点に注目してエネルギーを表現したのが「位置エネルギー」です。
ここから、位置エネルギーの大きさは、物体の質量に比例することになりますし、また、地面(基準面)からの高さにも比例することが導かれます。
運動エネルギーとは
物体が「エネルギーをもっている」という状態についてさらに考える二つ目の観点として、動いている物体がもつエネルギーに注目した場合、それを運動エネルギーと言います。
例えば、坂道でボールを転がしたときのことを想像してみて下さい。
坂道を下っているボールは、「転がる」という運動をしていることになります。この「転がる」という事象に注目し、どれだけ激しく動いているのか、という点から大きさを測るのが運動エネルギ―です。
物体が大きければ大きいほど運動がもつ衝撃は大きくなるでしょうし、ゆっくり動いているよりも早く動いている方が衝撃が大きいこともイメージを掴みやすいかと思います。
したがって、運動エネルギーの大きさは、物体の質量に比例することになりますし、また、物体の速さにも比例することが導かれます。
力学的エネルギー
そして、ここからが重要なことですが、位置エネルギーと運動エネルギーを足したものを、力学的エネルギーと言います。
以下でいくつかのパターンで具体的に説明しますが、その前に一般論を概説します。
力学的エネルギーの考え方
ある物体が有しているエネルギーについて分析するとき、その物体が
- どこにあるのか(位置)
- どれだけの動きをしているのか(運動)
という観点の二つについて考えることができます。
そして、この二つの観点は、決して重複するものではなく、また、この二つを合わせることによって、その物体の有するエネルギ―の全てを測ることができると言うこともできます。
例えば、あなたが富士山の頂上で立ち呆けているとしましょう。
あなたという物体のエネルギーについて分析したときに、標高3776mという位置エネルギーを保有し、そして、立ち呆けていることから、0という運動エネルギーを保有していると評価することができる。
そして、あなたのもっているエネルギーは、この二つのエネルギーを足したものであると言うことができる、これが力学的エネルギーです。
力学的エネルギー保存の法則
位置エネルギーと運動エネルギーが移り変わっても、力学的エネルギーは一定であるという法則を「力学的エネルギー保存の法則」と言います。
つまり、ある物体が一連の動きの中にあるときに、その物体についてどの場面を切り取ったとしても、力学的エネルギーは一定である、つまり、位置エネルギーと運動エネルギーの和は常に等しい値となる、ということになります。
力学的エネルギー保存の法則を利用した振り子の問題例
以下で、よく出題される振り子の問題について検討してみましょう。
上図のように振り子が動いているとしましょう。Aで手を放し、その後Cまで移動したという場合に、この図からエネルギーについてどのようなことを読み取ることができるか検討してみましょう。
振り子の問題を解くポイント
まず大切なことは、力学的エネルギー保存の法則より、ABCどの地点においても、振り子がもつ力学的エネルギーの大きさは常に一定であるということが言えます。
法則を直接あてはめることによって導くことができます。
A地点について
次に、手を放したAの地点についてですが、手を放した瞬間について考えたとき、振り子は完全に停止していることになります。
つまり、振り子は動いていないのですから、この時点における運動エネルギーは0となります。
しかし、「力学的エネルギー保存の法則」で述べたように、力学的エネルギーは常に一定であることが導かれます。
そのためA地点における力学的エネルギーは、その全てが位置エネルギーで充たされることになり、これが、他の部分の力学的エネルギーに等しくなるという関係にあります。
B地点について
B地点では、振り子がどんどんと加速して、その速さが一番早い段階となっています。
それに対して、振り子の高さは、一番低い状態になっています。とすると、B地点を基準面に設定したときに、B地点における位置エネルギーは0ということになります。
そして、先程と同じように、力学的エネルギー保存の法則より、各地点における力学的エネルギーの大きさは一定であることから、B地点における力学的エネルギーは運動エネルギーがその全てを充たしていることになります。
したがって、この運動エネルギーの大きさが他の地点における力学的エネルギーと等しくなることになります。
C地点について
C地点では、Aで手離された振り子が反対側まで行き切って、ここを契機に逆側へと振り子運動を開始しようとしている状態にあります。
つまり、A地点と同じように、振り子の動きはなくなっていますので、運動エネルギーは0ということになります。
そして、この結果、C地点における力学的エネルギーの内実は、全てが位置エネルギーであることになり、これが他の地点における力学的エネルギーの大きさに等しくなるという関係にあると読み取ることができます。
振り子問題のまとめ
つまり、ABCという点はそれぞれ特徴的な地点で、力学的エネルギーの内容が、位置エネルギーもしくは運動エネルギーのいずれかに等しいという場面であったということになります。
これ以外の地点、例えば、AとBの間の部分に地点Dというものを設けた場合であれば、Aで手離した振り子がどんどん加速をしている真っ最中について検討することになります。
そしてこの場合であれば、Aよりも低い位置にあるがBよりも高い位置にあるということから、ある大きさの位置エネルギーを観念することができ、また、Aの地点よりも早く動いているがBにおける速さには至っていないということから、ある大きさの運動エネルギーを観念することもできます。
そして、この二つのエネルギーの和が、他の部分の力学的エネルギーの大きさに等しいという関係が導かれることになります。
試験での出題のされ方
一般的な問われ方としては、例えば位置エネルギーが最大になる点はどこであるか、あるいは力学的エネルギーの関係はどうなっているか、などのように、この図を読解する力があれば簡単に答えることができるような形で出題されます。
したがって、計算は必要ありません。まずは図の読解をできるようにすることが大切でしょう。 具体的な数値が求めれるのは高校物理からです。
さいごに
今回みてきたように、中学生で学習する範囲に限っては、エネルギーの関係がどうなっているのかについて、数式による処理が必要なのではなく、図を読み取ることができるか、という点にかかってくることになります。
したがって、今回説明した振り子以外にも、例えばジェットコースターのように入り組んだ坂道を玉が転がるような図が提示されるかと思いますが、そのような場合であっても、上で行ったような各地点の分析ができるようになれば何も怖くはありません。
油断せず、同時に気楽に考えてみるとよいでしょう。