中学で学習する図形を大きく分けたとき、三角形に関するもの、四角形に関するもの、円に関するもの、に大きく分類することができるでしょう。
今回学習するのは、円に関するもののうち、特にその角度に注目した「円周角の定理」です。
三角形などと違って、円は「パキっと」していないようなイメージをもつことから苦手とする人は多いのではないでしょうか。
しかし、曲線に関する図形は世の中にたくさんある中で(楕円形などを想像して下さい)、円はその中では一番美しい形です。その美しさ、規則正しさ故に多くの性質を導くことができるわけです。
円の処理が得意な生徒は、円に対してこのような肯定的な感覚を持ち合わせていることが多いでしょう。
円周角の定理
円周角の定理とは
この図において、∠APBのことを円周角と言い、∠AOBのことを中心角と言います。そして、同じ弧に関する円周角と中心角については、
∠AOB=2∠APB
の関係が成り立つことになります。これが円周角の定理です。円周角は、中心角の2倍に等しい、という言い方がされることもあります。
勉強のポイント
ここで大切なことは、ABを弧としたとき、点Pの位置は円周上をどのように動くことができますから、無数に存在することになります。そのような無数のPによって作ることができる円周角∠APBについて、円周角の定理は成立することになります。
ただし、今「無数に」と表現しましたが、円周角の定理が成り立つためには、Pは弧AB上にあってはなりません。したがって、より正確な表現をするならば、円周上の弧ABを除く部分のPについての円周角∠APBについて、円周角の定理が成り立つということになります。(一般的に円周角と言うときは、弧の上の点は除外して定義されます。)
円周角の定理の証明
実際問題として円周角の定理を証明することが求められることは入試問題ではあまり多くはないですが、定期テストでは、確認の意味をこめて出題されることがありますので、一応検討しておきましょう。
難しくはないので、理解する必要はあります。
この図において、弧ABについて考えたとき、∠APBが円周角で、∠AOBが中心角ですね。ここで、中心角が円周角の2倍になることを証明してみましょう。
証明手順
上図の、Pから円の中心Oに直線を引いて、当該直線と弧ABが交わる点をCとします。
ここに2つの三角形が出現することがわかるでしょうか。この△PAOと△PBOについて、それぞれ検討してみます。
△PAOの角を検討
まず、△PAOはどのような三角形であるかを分析してみましょう。円に接していることから、△PAOは辺OP=辺OAの二等辺三角形であることがわかりますね。とすると、二等辺三角形の性質から、
∠OPA=∠OAP ―――①
を導くことができます。
そして、ここで大切なのが、「三角形の外角は、それと隣り合わない二つの角の和に等しい」という外角の定理です。外角の定理は非常に重要ですので、しっかりと確認しておきましょう。そして、今△POAの外角∠COAについて外角の定理を利用すると、
∠COA=∠OPA+∠OAP
これに①を代入すると、
∠COA=2∠OPA ―――②
が導かれることになります。
△PBOの角を検討
同じように、△PBOについても検討してみましょう。これも辺AO=辺COの二等辺三角形であることから、
∠BPO=∠PBO ―――③
を導くことができ、さらに、外角∠COBについて外角の定理を利用すると、
∠COB=∠BPO+∠PBO
これに③を代入すると、
∠COB=2∠OPB ―――④
が導かれます。
中心角∠AOBについて
ここで中心角については、
∠AOB=∠COA+∠COB
が成り立つことはわかりますね。これに③④を代入すると、
∠AOB=2∠OPA+2∠OPB
∠AOB=2(∠OPA+∠OPB) ―――⑤
と整理することができますね。
円周角∠APBについて
そして、円周角∠APBについて、図をしっかりみてもらうと、
∠APB=∠OPA+∠OPB
であることも明らかですから、これを⑤に代入すると、
∠AOB=2∠APB
となります。これによって、中心角が円周角の2倍であることを導くことができました。分かりにくい場合は、一度一緒ん図を一緒に書いてみてください。
ターレスの定理
いかめしい名前の定理ですが、この名前を覚える必要はありません。
円周角の定理のうち、弧に該当する部分が、たまたま円周の半分にあたる場合、つまり、中心角が180°になるという特殊な状況において、円周角の定理を利用した場合には、上の図のように、円周角が90°になるということを示したに過ぎません。
中心角∠AOE=180°、弧AEについての円周角を考えたとき、円周角はその半分となることから、円周角∠APE=90°ということが導かれるのです。
この場合、△APEは直角三角形を作ることになりますので、試験問題では非常に素材としやすいパターンとなります。しかし、あまりに特殊な形故に、円周角の定理との関係で捉えることができにくい、いわば盲点的な図形となっています。
円周角と弧
ここまでは、中心角との関係で円周角を捉えましたが、弧との関係でその性質を整理すると以下のようになります。
つまり、1つの円について、等しい円周角に対する弧は等しく、また等しい弧に対する円周角は等しい、という公式が成り立つことになります。
一見当たり前のようですが、複雑な図形問題に当たったときに、その図形を咀嚼する際に必要な情報となることがありますのでしっかりと理解しておきましょう。
円周角の定理の逆
さらに発展的な理解をする上で、以下のような表現をすることもできます。表題では「逆」という言い方をしましたが、その点について深く考える必要はありません。以下の内容が成り立つのだということをしっかりと読解することができれば合格です。
4点A、B、P、Qについて、PQが直線ABとの関係で同じ側にあるときに、∠APB=∠AQBが成り立つ場合には、この4点は同一円周上にあると言える。
一番はじめに述べた円周角の定理は、円の存在を前提にして、円周角と中心角についての理解をするものでした。
これに対して、ここではある条件において角度が等しいという特殊性から、その角度を円周角に同視することができる場合には、円を想定することができる、という理解をするものです。
基本的な学習をしている段階では全く不要な知識ですが、難関校を目指している受験生ならば、暗記をする必要はありませんが、ここで述べている内容を理解することはできなければなりません。
逆に、これを理解することができれば、円周角についての理解はほとんど問題ないと言えるでしょう。
円周角の定理に関する問題
基本問題
この図のxの値について考えてみましょう。
ここでは、弧BCについての円周角と中心角を考えることができるかがポイントとなります。つまり、弧BCについて円周角の定理を使用すると、
∠BOC=2∠BAC
∠BOC=2×50°
∠BOC=100°
となります。したがって、
x=360°-100°
=260°
と導くことができます。単純に定理を利用するだけではなく、1クッション置かれていることに気付くことができるかがポイントです。
円周角の定理の逆を利用する問題
さて、もう一つ基本的な問題を提示だけしておきます。ここではx=80°となりますが、どのようにして求めることができるのか、2通りの円周角について注目して考えてみて下さい。これがわかれば基本は大丈夫でしょう。
応用問題
せっかくですから、応用問題について検討してみましょう。
この問題では、多くの箇所について角度が判明していることから、単純に三角形あるいは四角形の内角の和を利用することで解けそうな気もしないではありません。しかし、おそらくそのようなアプローチで解答に至ることはできないでしょう。
ここでは、先程述べた、円周角の定理の逆と言われる思考が必要となります。
まず、∠ABD=∠ACD=30°である点に注意をしてみて下さい。ここでは、4点A、B、C、Dについて、直線ADに対して、同じ側にBCが存在しており、そして、この2つの角が等しいという状態であることを読み取ることができます。
つまり、4点A、B、C、Dは同一円周上にあることが導かれるのです。同一円周上にあることから∠ABDと∠ACDは、弧ADとの関係で同じ円周角の大きさになるという構造になっているわけです。
これが判明した場合には、容易に角度を求めることができるでしょう。
弧BCについて考えてみたとき、その円周角は等しくなりますので、∠CDB=∠CAB=81°ということが導かれます
また、弧CDについて注目したとき、同じように、∠DAC=∠DBC=40°となります。
そして、△ABCについて、その内角の和の観点からxを求めると、
x=180°-81°-30°-40°
=29°
という形で大きさを求めることができます。
さいごに
上で見た問題はあくまでも一例で、他にも様々なパターンの問題があります。とにかく図形に見慣れることが必要となりますし、考え方の癖をつけることができれば、問題にあたったときに、自然と色々なアプローチを思いつくようになっているでしょう。
発想力が問われる分野と思われがちですが、その発想力は生まれ持った能力に影響されるわけではなく、後天的な努力によるものです。したがって、しっかりと練習を重ねて、自分の中にいくつもの引き出しを用意することが大切となります。