日本は地震大国で云々、という説明はよくされますが、その通り、私たちが生活する日本でおこる地震の数は非常に多いです。記憶に新しいいくつもの大きな地震だけでなく、微弱なものまで併せると相当数に上るようです。
気象庁の発表によると、世界で生じるM3以上の地震のうち、その10分の1が日本近辺で生じているというデータには驚きが隠せません。
地震大国であることと関連があるのかは怪しいところではありますが、理科の重要分野として「地震」が挙げられます。
土地柄、震度・マグニチュードという言葉に馴染みは多いでしょうが、それをもう少し深めて、地震の原理や揺れの伝達方法などについて学習します。
受験との兼ね合いでは、知識問題に加えて、計算問題も関連してくるので、注意が必要な分野とも言えるでしょう。
よく言葉を聞くから、何となく知っているから、という理由で疎かにしないように心がける必要があります。
地震を学習する上での基礎知識
地震が起こる原因
まずは地震が発生するメカニズムについてご説明します。
(画像:東京都防災ホームページより)
私たちの住む地球の表面は、卵の殻のように一枚の板で覆われている、というわけではなく、十数枚の大きな板のようなもの(これを「プレート」と言います)で覆われています。
このプレートたちは常に移動していて、プレート同士がぶつかったり、一方のプレートに他方のプレートが沈み込んだりする現象がおこります。このときに、生じる力が原因となって地震が発生します。
つまり、プレートの境界線で地震は発生する傾向が大きく、逆にプレートの中央部では地震は起こりにくいということになります。
日本でおこる地震は後者が原因です。日本列島がのっている大陸プレートの下に、海洋プレートが沈み込みます。すると、大陸プレートが海洋プレートに引きずりこまれる現象が起こります。この引きずり込む力に大陸プレートが耐えられなくなったときに、大陸プレートが反発を起こします。その結果、地震が発生するという仕組みです。
ちなみに、日本列島について言えば、太平洋側の日本海溝で地震が多く発生する傾向にあります。ここにプレートの境界線が分布しているからです。つまり、発生する地震の震源の深さは、日本海溝から日本海側にすすむにつれて深くなる(沈み込みが激しくなるから)ことになります。
震源と震央
このように地震は、地下のある地点において発生します。
このように、地震のゆれがまさに発生したポイントのことを「震源」と言います。これに対して、震源の真上の地表地点のことを「震央」と言います。
ニュース速報が流れたときに、「震源の深さは…」ということが必ず言われるかと思いますが、震源から震央までの距離、と言い換えることもできます。
地震のゆれは、震源を中心にして同心円状に伝わる、ということが大切なポイントです。以下で、地震のゆれについてP波・S波を学習しますが、いずれも震源を中心に、同心円状に伝わっていきます。
地震の揺れの伝わり方
さて、ここからが本題です。
プレートがずれると地震波が発生します。この地震波が地表に伝わったとき、私たちはゆれを感じます。
ここを大切にして欲しいのですが、つまり、「プレートがずれる→ゆれたと感じる」のではなく、「プレートがずれる→地震波が発生→地表に伝わりゆれる」という形で、地震波というものが介在していることをしっかりと押さえて頂きたいです。
そして、この地震波には「P波」「S波」という二種類があり、それぞれ伝わる速さが違うのです。
P波の方がS波に比べて伝達速度がはやいのが特徴です。すなわち、地震が発生したとき、以下のような流れが必ず発生することになります。
地震発生の流れ
- 震源で地震が発生(地震波の発生=P波・S波がスタート)
- P波が地上に伝わり、地表を揺らす。
- S波が地上に伝わり、地表を揺らす。
暗記する用語
この仕組みを理解した上で、いくつかの用語を整理する必要があります。
- 「P波によって引き起こされるゆれ」のことを、初期微動と言います。
- 「S波によって引き起こされるゆれ」のことを、主要動と言います。
- P波が伝わってからS波が伝わるまでの時間のことを、初期微動継続時間と言います。
震源地から遠いほど、初期微動継続時間は長くなります。そして、これらの数値をデータから計算することによって、震源からの距離などを求めるように問われるのです。
震度とマグニチュード
もう一つ、基本的な用語について説明しておきます。
震度
震度とは、ある地点での地震のゆれの程度に注目したものです。一般的に、震央から遠ざかるほど震度は小さくなります。10階級で表されます。
マグニチュード
マグニチュードとは、地震の規模の大きさ、エネルギーの大きさを表した数値です。混同して使いがちですが、厳密には意味が全く異なりますので、これを機会に整理しておきましょう。
地震に関する問題と解き方
ここまでは地震の基礎知識について勉強しました。では、ここからは地震の問題の解き方についてご紹介していきます。
地震波の速さを求める問題
【問題1】
このゆれをひきおこした地震波の速さを求めなさい。
AB両地点において、ゆれがはじまった時間が示されています。
最初にやってくるゆれはP波によってひきおこされる初期微動ですから、今回の問題ではAB両地点における初期微動に関するデータから、P波の速さを求めるように指示されていることになりますね。
とすると、A地点からB地点の距離が20km(100km-80km)で、この距離を移動するためにかかった時間が4秒(14秒-10秒)ですから、P波の秒速は、
20km÷4秒=5km/s
というように求めることができます。
問題文から、P波かS波か、あるいは両方が関係した問題であるのかをしっかりと読み取ることが大切です。
地震の発生時刻を求める問題
【問題2】
本問において、地震が発生した時刻を求めなさい。
P波の秒速を求めることができたので、P波が震源から80kmのA地点にとどくまでの時間を求めることは簡単でしょう。つまり、
80km÷5km/s=16秒
と求めることができます。
したがって、10時10分10秒から16秒戻せば良いのですから、今回の地震が発生した時刻は、10時9分54秒となります。
今回は1の設問が与えられて道筋が誘導されましたが、このような誘導問題がない場合でも、上で説明したように、どの地震波について注目すれば良いのかを冷静に分析することがポイントです。その段階をクリアできれば、あとは「速さの問題」を解けば良いだけです。
地震のグラフ問題と解き方
さて、次はグラフから必要事項を読み取る練習をしてみましょう。次のグラフから4つ問題を出します。
自信がある方は、いきなり4の問題まで飛ばしてみて下さい。
P波の速さを求める
【問題1】
上のグラフからP波の速さを求めなさい。
グラフで読み取りやすいポイントをしっかりと取り出すことができるかが重要です。例えば5秒で40km進んだという点でも、また、10秒で80kmという点でも良いでしょう。これを見つけることができれば、速さの計算をするだけです。
40km÷5秒=8km/s
S波の速さを求める
【問題2】
上のグラフからS波の速さを求めなさい。
P波と同じように、計算しやすいポイントを見つけましょう。例えば、120kmすすむのに30秒かかったという点で計算してみると、以下のように求めることができます。
120km÷30秒=4km/s
初期微動継続時間を求める
【問題3】
上のグラフから震源から80km地点の初期微動継続時間を求めなさい。
初期微動継続時間とは、P波が到着してからS波が到着するまでの時間でしたね。とすると、80km地点にP波が到達するのに必要な時間が10秒、80km地点にS波が到達するのに必要な時間が20秒ですから、80km地点における初期微動継続時間は、
20秒-10秒=10秒
というように求めることができます。
地震発生時刻と初期微動継続時間を求める
【問題4】
上のグラフから震源から160km離れた地点において、主要動を観測した時刻が10時10分10秒であったとき、地震が発生した時刻を求めなさい。また、この地点における初期微動継続時間も併せて求めなさい。
主要動について問われているのですからS波のグラフについて注目することになります。
しかし、今回のグラフではS波の160km地点部分のグラフが描かれていません。しかし、ここまでの1~3における誘導で、これを求めることは簡単でしょう。
大切なことは、このような誘導がない場合でも、しっかりとP波・S波の速さを求め、一つずつ必要事項をクリアできていけるか、という点です。問われている内容は難しくないですが、一人で積み重ねるとなると、別のプレッシャーがかかります。冷静に対処できるよう練習を重ねましょう。
地震が発生した時刻
さて、震源から160km離れた地点に、秒速4kmのS波が届くには、
160km÷4km/s=40秒
の時間が必要ということを求めることができます。そして、これを観測したのが10時10分10秒ですので、地震が発生した時刻は、
10時9分30秒
が答えとなります。
160km離れた地点の初期微動継続時間
次に、この地点における初期微動継続時間を求めるためには、P波が到達するまでどれだけの時間が必要かを求めなければなりません。したがって、160km離れた地点に秒速8kmのP波が到達するには、
160km÷8km/s=20秒
の時間が必要ということがわかります。とすると、求めるべき初期微動継続時間は、
40秒-20秒=20秒
ということになります。
地震を学習する上でのポイント
算数・数学の速さの問題と同じことが言えます。
複雑にしようと思えばどれだけでも複雑な問題を作ることもできますが、結局そこで必要とされる作業は、基本公式をどれだけ正確に処理できるか、ということが問われているに過ぎないのです。
確かに「地震」というテーマを扱う中で、P波・S波などの用語を絡めながら出題されることから幾許かの小難しさを感じても仕方のないことでしょう。
ただ、バリエーションに溢れているように見えても、実はそれぞれの問題で行うべきことは限られていることはおわかり頂けたことでしょう。
用語を覚え、グラフを分析する、しかもそのグラフは複雑な形で出題されることはあり得ません。基本に忠実な学習を経れば習得しやすい分野ですので、得点源にできるような状態を目指しましょう。