平成28年6月8日に国際機関「国際純正・応用化学連合(IUPAC)」から命名権を認定された新しい元素「ニホニウム」は、日本で初めて発見され、名付けられた元素となりました。
この日は新聞やテレビのトップニュースでも多く伝えられたことから、時事問題に敏感な中学の入試では、理科の問題で出題される可能性も非常に高いと考えられます。
本記事では、この「ニホニウム」について解説したいと思います。
ニホニウムの基本データを押さえよう!
元素というのは、この世の中の全ての物質をかたち作っている最小単位「原子」の種類を言います。元素には番号が割り当てられていて、1番の水素から118番目のウンウンオクチウム(仮名)までが、現在正式に認定されている全ての元素です。
そのうち、水素から94番のプルトニウムまでが自然界に存在する元素で、95番目以降が人工的に作られた元素です。
元素には元素記号というその元素を簡単に表す記号が割り振られていて、例えば水素であればH、酸素ならばO、ニホニウムであればNhです。元素は色々な国で発見されていますが、科学の歴史が長いヨーロッパやアメリカでの発見がやはり圧倒的に多く、今迄日本で発見され元素の命名権獲得までたどりついた元素はありませんでした。
今回、ニホニウムはそんな念願がかなっての初めての元素となり、日本の科学史にも残る大発見と言えます。
入試において、原子についての詳しいことまでは出題されないと考えられますが、以下の基本事項は押さえておきましょう。
ニホニウムの基本事項
元素名 | ニホニウム |
元素番号 | 113 |
元素記号 | Nh |
特徴 | 日本が発見し、名前を付けた |
ニホニウムはどうやって発見されたの?
ニホニウムは、埼玉県和光市にある国の最先端研究施設・理化学研究所にて発見されました。
理化学研究所は先のSTAP細胞の発見・取り消し騒ぎの舞台となったところでもありますが、本来は国の最高研究機関であり、東大の研究室などで腕を磨いた選りすぐりの研究者達が働いている場所です。
ニホニウムは理化学研究所所有の加速器という機械を使い2001年から実験を重ね、亜鉛(No.30)の原子核を光の1/10の速度でビスマス(No.83)の原子核にぶつけ、核融合を起こして113番目の元素を誕生させました。
元素は、真ん中に位置する原子核とよばれる中心部分によってその元素が何たるかが決まります。つまりは、30+83=113で113番目の元素ができた訳で、適切な組み合わせさえ突き止めれば、今後も同じような方法で次々と新しい元素を生み出せる可能性があります。
現在、理化学研究所ではまだ見つかっていない119番目の元素の合成・発見を目指して研究中です。
ニホニウムの追加重要事項
発見の経緯 | 加速器という機械を使って人工的に作られた |
合成に使った元素 | 亜鉛とビスマス |
合成の仕方 | 亜鉛とビスマスの原子核を高速でぶつけて合体させる |
次なる目標 | まだ見つかっていない119番目の元素を発見する |
ニホニウムの科学的特徴
ニホニウムの科学的特徴については、現在殆ど分かっていません。寿命は4/1,000秒とごくわずかですが、超ウラン系と呼ばれる元素の中では長寿命となっています。
元素の中で最も安定しているのは鉄(No.26)ですが、これより元素の質量(基本的に元素番号×2)が重くなると元素は不安定になります。日本では、非常に短命であるニホニウムをその寿命時間の中で正確に観察し、存在の証拠として上げることができた非常に高い技術力があったことが分かります。
ニホニウムは役に立つのか?
この寿命がごく短く、わざわざ人工的に作り出したニホニウムについては、一体何の役に立つのかという意見も聞かれるところではありますが、科学において大切なのはまず発見することなのです。発見後しばらく経った後、その物質についての驚くような有効性が見つかったりすることは、科学史上決して珍しいことではありません。
例えばイッテリビウムなどは300年前に発見された元素ですが、現在では超正確性が要求される手術用器具や航空機部品の切断に使用されるイッテリビウムレーザーに使用されています。ですので、世界に先駆けて新しいものを見つけ、権利を獲得するというのは国家の有益性にとっては非常に重要なことなのです。
その他の国名が名付けられた元素
元素には発見された国名や地名、発見した科学者の名前が付けられるのが一般的です。こういった例の中で、重要な元素として
- ゲルマニウム(No.32・ドイツの古い国名はゲルマン)
- スカンジウム(No.21・スイスのスカンジナビア半島)
- イッテルビウム(No.70・スウェーデンのイッテルビー村)
- アメリシウム(No.95・アメリカ)
- フランシウム(No.87・フランス)
などが挙げられます。
特にイッテルビウムが発見されたイッテルビー村では、古くから産出されていたガドリン石という鉱物からイッテルビウム、エルビウム、テルビウム、イットリウムという4つもの元素がみつかっています。
実は先にニホニウムを発見したのはロシアとアメリカ
実は、113番目の元素の命名権を巡っては、日本はアメリカとロシアの異なる共同研究チーム2チームと熾烈な競争を繰り広げていました。先に113番目の元素を発見したのは、ロシアとアメリカの研究チームでしたが、命名権は認められませんでした。
後発となった日本はこの次の年に全く新しい方法で113番目元素を作り出しました。その後、2,3年おきにロシア・アメリカチームと日本チームが交互に元素合成の成功を発表しましたが、結果として3回もの合成に成功した理化学研究所に軍配が上がったのです。
熾烈な国際競争の中で日本が勝った理由
どうしてこの熾烈な戦いに日本が勝てたかと言うと、それまでの一般常識とされていた方法とは違う方法を選び、成功したからです。
それまでは、原子番号の大きな元素(原子核が大きいので他の原子をぶつけやすい)から113番目を作り出していましたが、そうすると中性子の数も多くなり、原子核の不規則な分裂を招きやすく、観測失敗のリスクが大きかった所を日本では、中程度の原子(ビスマス)を使うことでリスクを軽減し、着実性を高めたのでした。
このように科学の研究では、他者が行わないことをやることで、成功へのブレークスルーを引き寄せることがあります。
これは科学の研究だけに止まらず、ビジネスや勉強の仕方にも通じるところがあるでしょう。誰もやらないところに目を付け、アイディアと努力で結果に到達する。ニホニウム研究には、受験にも役立つ教えが詰まっているように感じます。